冷たい密室と博士たち~本格なミステリと理系

すべてがFになる」に続く、S&Mシリーズ第2弾 「冷たい密室と博士たち」を読みました。これも面白かった。週末に一気に読んでしまいました。

 

あらすじ

衆人環視の密室殺人者の手口は!?
低温度実験室の事件を推理する犀川助教授とお嬢様学生・萌絵

同僚の誘いで低温度実験室を訪ねた犀川(さいかわ)助教授とお嬢様学生の西之園萌絵(にしのそのもえ)。だがその夜、衆人環視かつ密室状態の実験室の中で、男女2名の大学院生が死体となって発見された。被害者は、そして犯人は、どうやって中に入ったのか!?人気の師弟コンビが事件を推理し真相に迫るが……。究極の森ミステリィ第2弾。

 

前作と比べスケールは小さくなった様子ですが、その分トリックと謎解きのおもしろさで一気に読まされました。理系ミステリというよりも本格ミステリといった感じでしょうか。

 

今作に登場した犀川の友人、喜多も犀川や萌絵と同じく頭の切れる人物のようです。どちらかといえば萌絵の思考に近いような気がします。喜多が登場することによって、犀川の前作では見られなかった部分が見られ、犀川をより身近に、魅力的に感じました。特に犀川の萌絵に対する気持ちや態度は今後も見続けて、観察したいなと思わせてくれます。

 

今作は大学の実験施設での事件ということで、被害者や容疑者も大学の関係者に限られます。このお話しの中で、元助教授である作者の学問に対する姿勢というのが垣間見えるような気がします。

面白ければ良いんだ。面白ければ、無駄遣いではない。子供の砂遊びと同じだよ。面白くなかったら、誰が研究なんてするもんか。

これは表紙にも書かれている今作での犀川の言葉です。大学での研究、特に実学には少し遠い基礎や理論の分野を研究している人は頷きたくなる言葉ではないでしょうか。さらに犀川は物語の最後にこんなことも言っています。数学は何の役に立つと思うかという問いに対して

「何故、役に立たなくちゃあいけないのかって、きき返す」犀川はすぐに答えた。「だいたい、役に立たないもの方が楽しいじゃないか。音楽だって、芸術だって、何の役にも立たない。最も役に立たないということが、数学が一番人間的で純粋な学問である証拠です。人間だけが役に立たないことを考えるんですからね」

 

「そもそも、僕たちは何かの役に立っていますか?」犀川はおどけて言った。

 

僕はこの考えがとても好きです。もちろん学問や研究が人の役に立つことはうれしいし、誇らしい。けれど、それが最終目標でやっているんじゃないんです。面白くて、楽しくて、夢中になれるからやっているんです。少なくとも僕はそうでした。

 

最近では就職活動の採用面接で「その研究は何か意味があるのか?」「その研究は社会にどのように貢献するのか?」と聞かれます。企業としては利益や社会貢献を求めるの当たり前だと思うし、「まったく役に立ちません」なんてへらへら答えるのも違うということは分かってます。

しかし、大学での研究・学問のすべてが社会に貢献して然るもの、そのために存在するものとは捉えないでほしい。今は役に立たなくてもいつかは役に立つもの、全く予想外の分野で急に役に立つものだってあります。

学問や研究のある意味での無駄を許容できなくなった余裕のない社会では、豊かさは失われていってしまうと思います。

 

少し熱くなってしまいましたが、僕は犀川の言葉に強く共感でき、犀川というキャラクターがもっと好きになりました。理系ミステリというほど理系要素は強くないかもしれないけど、理系の人に読んでほしいなと思いました。

 

最後の犀川と萌絵のやり取りだけでも読んだ価値はあったと思えたし、もっとこの二人の話を読みたいなと思いました。まだまだS&Mからは離れられません。

 

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