すべてがFになる~天才の死生観と理系ミステリ

 

 森博嗣「すべてがFになる」を読みました。

実は数年前に購入してからずっと本棚に眠らせてしまっていた本でした。なぜすぐに読まなかったのか、夢中になって読み進めました。

 

あらすじ

密室から飛び出した死体。究極の謎解きミステリィ
コンピュータに残されたメッセージに挑む犀川助教授とお嬢様学生・萌絵。

孤島のハイテク研究所で、少女時代から完全に隔離された生活を送る天才工学博士・真賀田四季(まがたしき)。彼女の部屋からウエディング・ドレスをまとい両手両足を切断された死体が現れた。偶然、島を訪れていたN大助教授・犀川創平(さいかわそうへい)と女子学生・西之園萌絵(にしのそのもえ)が、この不可思議な密室殺人に挑む。新しい形の本格ミステリィ登場。

 

理系ミステリとよばれるとのことでした。作者は元工学部の助教授でしたし、登場人物も理系が多かったです。それでも学生の萌絵を通じて読者が置いてけぼりにならないように話が進んでいくので、とても読みやすかったです。短い章で区切られているのも全体のボリュームのわりに読みやすさを感じる要因かなと思います。

 

ミステリの核となるトリックも理系ならではの斬新さを感じて面白かったし、犀川や真賀田博士の語る世界観もとても引き込まれました。理屈っぽいのが好きなんです。謎解きも犀川と萌絵の二人の視点から迫るというおもしろさがありました。

 

 

タイトルの「すべてがFになる」とは、真賀田博士の部屋に残されていたメッセージです。このメッセージの謎解きも爽快で「そういうことかぁ~」とひとりでうなってしまいました。情報科学に詳しい人なら気づいていた人もいたんだろうか・・・

 

とにかく真賀田博士の天才性に畏れました。異次元で理解し得ないその発想に犀川と萌絵が考え抜いて近づいていくのを読むのが楽しくて止まりませんでした。もちろん犀川と萌絵も一般的には天才の部類に入るのではないかと思うのですが、真賀田博士のそれは圧倒的なのです。

最後に語られる真賀田博士の死生観にはなぜか引き込まれます。

「自分の人生を他人に干渉してもらいたい、それが、愛されたい、という言葉の意味ではありませんか?犀川先生……。自分の意志で生まれてくる生命はありません。他人の干渉によって死ぬというのは、自分の意志ではなく生まれたものの、本能的な欲求ではないでしょうか? 

 自分の意志で生まれたものはいない。だから、死ぬ時も自分の意志が介在すべきではない。僕にはそう感じられます。少し青臭いような考えにも思えますが、こういったものを考えることができるというのが余裕であり、豊かさではないかと僕は思います。

とにかく僕のなかには深く届く言葉でした。

 

他にも味わい深い言葉はいっぱいありましたし、理系の大学に在籍していたことがある人なら共感できる犀川の大学への愚痴であったり、面白い部分はたくさんありました。

今作を1作目として犀川と萌絵の物語は『S&Mシリーズ』として10作ほど続いているそうです。かなりのボリュームを誇る本もあるようですが、僕はこのシリーズを読むことをやめられないでしょう。今は2作目の「冷たい密室と博士たち」を読んでいます。しばらくS&Mから離れられません。

 

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